ただそこにとどまる、ぼんやり見つめる、深呼吸する、音をきく。そういうことこそが、台東で一番面白くて味わい深いことだから。

台湾は九州ぐらいのサイズ。その中で台東とは、東部というより南東部に位置する。台湾は南北に山脈が走っていて、人間が住める場所は限られている。

西側は台北(台湾の北側)から台中、台南(これも名前のわりに南の端じゃない)、高雄と新幹線も通っていて、間にもたくさんの町があり、発達している。その反面、台湾の東側は、新幹線もなく電車だけだし、その電車も本数が少なく祭日などはチケットの取り合いになる。車の道路も片側一車線の一般道で、山道や海際の道が続きカーブが多い。

台北から台東まで車で6時間強。電車だと3時間半ぐらいだろうか。でもそれも、特急などの早い電車のチケットが取れた場合。のんびり電車に乗れば、やっぱり6時間はかかる。

台東とひとことで言っても、南北に長く、広い。北と南に一本の海沿いの道が走っていて、それが全体をつないでいる。いわば、台東県。その中で南に位置するのが台東市といって、台東県の一番大きな町となる。といっても、田舎の大きな町だから店も建物もそれなりの数だけど、大きな市場があったりして活気がある。

だから、台東に住んでいる、といっても台東市内なのか台東県内なのかで、位置感覚は大きく変わる。

2年以上台北に暮らした私がはじめて台東に来たのは、友達からの紹介で「池上」という台湾で有名な米の産地に家を見に来た時だった。台北からはとても遠い。ここは台東でも海岸線から40分ほど内陸部。日本の田舎みたいに、田んぼが一面に広がる。見せてもらった家は山の上で、写真で見たのとは大きく違って残念だったけれど、その時、その家の持ち主さんが泊まらせてくれたのが成功鎮という海岸沿いの町にあるキャンプサイト兼コンテナハウス民宿だった。

翌日、少し成功の町を案内してくれた。

小さな町から離れると、思いがけない景色。海と山の荘厳さに息をのみ、出会う人たちの人の好さに魅了されて、はじめて台東という場所を知った。それまでは、台北から遠いところ、というぐらいの認識しかなく、なぜ台湾の人たちがこぞって「住みたい」というのかまったくわかっていなかった。台湾の最後の楽園、それは不便だからこそ守られている美しさだった。

沖縄やハワイのような南国特有の気配。海を見て振り返ると、そこに切り立った山が幾重にも連なり、山の頂を隠すような雲がもこもこと浮かんでいる。とても不思議で荘厳な気配がある場所。

このたった半日で、私たちは台東のとりこになった。海が美しく、台北とはまったく違う香り立つような空気があり、田舎だけれど人も良くて、港があり、畑がある。原住民もたくさんいて、面白い食べ物もたくさんありそうだった。店がほとんど見あたらないのは、台北の店の数にすっかり飽きていた私たちには何の問題でもなかった。

そうして私たちは荷物ごと無謀にも引っ越してきて、2か月近く家を探して、やっと出合った今の場所に暮らしている。その間、いろんな人に出会い、紹介してもらい、あちこち走り回ったおかげで、家に落ち着いたころにはすでに知り合いも多く、面白い人にもめぐり合っていて、中国語も急に上達した。車がないと暮らせないとはまさに台東のことで、車なしにはどこにも行けないし、面白くもなんともない。

だから、台東に旅行で来る人には、ぜひ、レンタカーをお勧めしたい。自分で好きな場所に行って、好きなところに車を止めて、好きなところに迷いこんでみると、一本道に思えた場所が急に広がる。左ハンドルで、右側通行だけれど、カーブで追い越しかけてくる車も多いけど、乗る価値はある。

観光名所やモニュメントを見るためじゃなくて、誰かが決めたビューポイントで写真を撮るためじゃなくて、その時の自分がハッと息をのむような景色を、ただ自然にそこにあるものを自分のペースで感じるために。

ただそこにとどまる、ぼんやり見つめる、深呼吸する、音をきく。そういうことこそが、台東で一番面白くて味わい深いことだから。

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